「…え、俺が買い出しッスか??」

「そうだ。その…期間中は…運動はしない方がいいだろう?」


口篭りながら、極力『生理』という単語を避けようとしている手塚。

しかし、そんな思いはリョーマには届かなかった。


「?あぁ、生理のことッスか?」

「!?……///」

「クスクス、リョーマ君。手塚を苛めちゃ駄目だよv」


手塚の態度を見兼ねた不二が、口を挟んできた。


「…不二先輩…」

「ん?何?」

「いや、何でもないッス」


リョーマとしては、昨日の不二の行動の理由を訊いておきたいが、今この場は危険だ。

他のレギュラーにキスの事が聞かれたら…乱闘、いやそれどころか内部決裂になりかねない。


「…兎に角、これが買ってきて欲しい物のメモだ」


メモを渡され、仕方なく了解した。

やはり部長には逆らえないのが、一年の悲しいところ。


「じゃ、行ってくるッス」

「気をつけてね、リョーマ君。怪しい男が近寄って来たら逃げるんだよー」


一応、優しい気遣いの言葉。

しかし、この台詞…不二だけは言ってはいけないだろう。


(部内に怪しい先輩居るのに、他に誰を警戒しろって言うのさ…)


リョーマは内心そう思いながら、メモに書かれている店へ急いだ。

































「これで…全部かな」


テニス用品の一式を買って、店を出た。

女になったらまた一段と細くなった腕で、重い荷物を運ぶのだった。


「あっれぇ〜?もしかして…リョーマ君?」


この声は…。嫌な予感を振り切るように、後ろを振り返った。


「やっぱりリョーマ君だ〜vvv俺ってラッキー♪」

「…やっぱりアンタだった」


振り向いた先に居たのは、千石清純。

リョーマに付き纏っている他校生の一人であった。


「あれ〜?買い出し??一人なんて珍しいね☆」

「まぁ…色々あってね。千石さんは?」

「清純でいいよvv俺は亜久津と遊んでたのさっ」

「…亜久津?」

「そ、あぁ…戻って来た」


千石が指差した先に、亜久津は歩いていた。


「テメェ、何指差してんだよ」

「怒んないでよ〜。ほら、リョーマ君も居る事だしね♪」

「あぁ?…越前」

「ども」


亜久津がテニスを辞めてからは、全く逢っていなかった。

だから、妙な懐かしさが込み上げてくる。


「…元気そうッスね」

「あぁ、まぁな。お前は…何かまた色気が出たな」

「馬鹿!そんな訳ないでしょ!」


ちょっと良い感じの二人。

そんな二人を見ていた千石は、面白い筈がなかった。


「ほら、リョーマ君。買出しの途中でしょ?いいの、此処に居て?」

「あ…そっか…。もう帰んないと…」

「送ってくぜ?」

「え?いいの、亜久津…」

「歩くより早いだろーしな」


そう言って亜久津はリョーマの手を引いて、駐車場の一角に連れてきた。

またも美味しい所を奪われた千石は、泣き泣き二人の後を追ってきた。


「何?此処で何すんの??」

「これだよ」


亜久津が見せたのは、バイク。

それに、心は男であるリョーマは感心を示した。


「すっごい…。格好良い!」

「だろ?乗せてやるよ、送ってくついでに」

「亜久津!もし事故ったりしたらどうすんだよ!」


少し焦りながら、尤もな事を言う千石。

まぁ、この場では負け犬の遠吠えにしか聞こえなかったが…。


「俺はそんなヘマしねぇよ。ほら、乗れよ越前」

「うん!」


バイクに乗り、走り出した二人を、千石は慌てて原付で追いかけた。


「うわ〜…風が気持ち良い!」

「気に入ったんなら、また乗せてやるよ」

「有難う。…って、アレ…?」

「何だよ?」

「亜久津と千…じゃなくって清純って、15歳じゃなかったっけ…?」

「当たり前だ。年なんか誤魔化さねぇ」

「何で…乗ってるの…??」


最初に気付くべき疑問。

興奮していたリョーマには、気付ける筈もなかったが。


「んなの、無免許に決まってんだろ」

「?!じゃ、じゃあ、何で持ってるのさ?!」

「盗んだ!しかないよね〜♪」


亜久津の後ろを走る千石が答えた。


「ま、マジ…??」

「「マジ」」

「やだぁ〜!!!降ろせ、降ろせ!!」

「わ、馬鹿…!あんまり暴れんじゃねぇ!転倒するぞ?!」

「…う…」

「捕まったりしねぇから、安心しろって」


いや、その保障は無いだろう。

だがそのツッコミは命に関わる。


「リョーマく〜ん。楽しい?」

「…楽しい訳ない!!」


そんなやりとりをしている内に、青学の付近にまで来ていた。

千石も亜久津も、違う意味で顔が知られている為、これ以上学校に近づくのは危険だったのだ。


「…もう、怖かったんだからね!」


色んな意味で怖かった。

警察に捕まったら退学の恐れがあるし、下手したら事故で死んだかもしれない。


「…悪かった。もう、誘ったりしねぇよ」


流石に亜久津も反省したのか、少し表情が沈んでいる。


「まぁ、何もなかったから良かったじゃん?ほら、早く学校に戻った方がいいよ!」


千石に背中を押されたリョーマは、後ろを振り向いて言った。


「亜久津!あの…ごめん。ホントは、楽しかったから!」


そう言い残して、学園内に逃げるように入っていった。


「けっ…あの野郎」


可愛い台詞を言ってくれたリョーマに、亜久津も微笑を浮かべていた。

…が、その後ろで千石が乾いた笑みを浮かべている事にまだ気付かない。

その後、千石の嫌味な攻撃が亜久津を襲ったのは言うまでもなかった…。